赤い月

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  団長も久々の笑顔をみせた。 「ほんと、よかったですね、これで一安心です、あとは入札交渉に集中できますね、目標達成に向けて攻めに攻めるのみ、ですね」 嬉しそうにいいながら、しかし、自身の任務は果たせたという気にでもなったのか、安堵の色濃いため息を一つ、ついた。 そんな団長に、オレは、発破をかける必要があるとおもった。 「一歩前進で、これからひとも増えますので、運転手一人、雇いました、アブダッラという若い運ちゃんです、明日から、かれがいつもの時間に迎えにいきます、クルマはこれ、このランクルです、団長には交渉成立まで、派遣団の専用車として、ご自由に使ってくださってけっこうです、アブダッラですけど、かれ、片言の英語は話せます、基本的に団員の送迎、移動が仕事になります、でも、なんとかとなんとかは使いようで切れる、とかいいますよね、なので、多少の使い走りくらいはOKしてくれるでしょう、気が乗ればのはなしですが、で、わたしたち現場の方は、事務所の総務管理用の小型車プジョー四○四をつかいます、主任はわたしが運びますので、ご心配なく、いずれにしても、お互い、連絡は密にしておく必要がありますので、なんでもけっこうです、いつでもわたしにいってください、手配いたしますので、では今後とも、よろしくおねがいします」    これで、現行のサハラ事業計画と、新規の砂漠化防止計画入札交渉団との間に、業務範囲の線引きができた。あとは、互いに煩わせることなく、それぞれ独自の采配で動けばいいだろう。  交渉団と距離をおき、もっぱら事務管理の残務整理に時間をついやした週末、エルゴレアの現場主任がアルジェ入りした。空港で迎えの車に乗り込んできた主任は、強敵を打ち破ったばかりの柔道家の熱と自信にあふれていた。 「お元気そうですね!」  意外におもってオレはいった。 「連絡、遅くなって、怒鳴られるかとおもってたんですよ」 「そんなこと、するかよ!」
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