6人が本棚に入れています
本棚に追加
いかにもレイラが目の前にいるように、いった。
「もちろん、あの娘には、愛らしさもありますけど、それだけでは済まない、なんか、こう、予断を許さない猜疑心、みたいのものが、いつも背後に控えてて、それが、ほら、もともと彫が深いでしょう、だから、眉間の奥の方から、こう、ちょっと暗い雰囲気が、こちら側に漂ってくるんですよね」
聞きながらオレは、カスバで知り合ったばかりのレイラのことを思い浮かべていた。
小づくりであどけない、けれど、どこか猜疑の翳りが漂う小女だった。洗い晒しのそまつなワンピース、そこから適度に肉の巻いた腕や脚がのぞいていた。ピンクの花模様を散らした胴の上には、小さなムネが二つ、薄い白地の布を内側から元気よく、膨らませていた。
オレはレイラを安心させるため、ことあるごとに信頼のサインを送った。だが、小女の表情は硬く、そこから猜疑と警戒の陰が消えることはなかった。
そんなレイラも、大きくなるにつれ、鼻の線が鋭くなる反面、頬や顎、切れ長の目にいくぶん丸みが出て、少しずつ女らしくなっていった。
そこにオレは、自分の努力の成果をみとめた。相手の信頼を勝ち得たものとおもったのだ。
だが、眉間の奥の、黒水晶のような瞳に目を移すとき、背後に潜むかたくなな意志が顔をのぞかせ、好奇や猜疑、それに警戒の心と微妙に干渉しながら、栗色の長いまつげを通して、いつもこちらを窺っていることに、気づかされるのだった
いま団長は、あのころのオレと、似たような状態にある。
当時レイラは、祖母をなくし、悲嘆に暮れながらも気丈に働く健気な小女だった。その勇気に拍手を送り、奮闘する小さな生を愛しくおもった。世間というからくりの中で、荒々しい巨獣にいたぶられる生贄だった。虐待され蹂躪されながら、そのことにすら気づいていない。どうにも痛ましい無力な存在だった。だからオレは、保護者として、その境遇から救ってやりたいとおもったのだ。その実、心の底では、小さく可憐で無力な生き物を独り占めし、気の向くままに支配してやろうと、邪悪な狙いを定めていたにもかかわらず…。
最初のコメントを投稿しよう!