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耳が聴こえず、旅芸人一座に身を委ね、世間の波にもまれながら生きる踊り子レイラ、その不幸な境遇に深く同情し、気丈に振舞う健気な姿に幸あれと願う団長の気持ちは、手に取るように分かる。
だが、オレの場合とは、違っていた。
なによりもまず、団長には、実の娘ルーナへの愛欲があった。当然、倫理の壁に阻まれ、先へは進めない。悶々とするなか、突如、瓜二つの娘に出遭った。ベン・ムーハメド家の子女レイラだ。しかし、何度生まれ変わろうが手の届く相手ではない。禁断の果実を遠目につらい毎日がつづく。そこに、生き写しの踊り子レイラが現れた。現実に、つのる愛欲の捌け口をみつけたのだ。
「ちょっと暗い雰囲気って、眉間の奥の方から漂ってくるアレのことですか」
「そうです、耳が聴こえない、たったそれだけで、いじめられて、つまはじきされて、じっと我慢して、何度も死にたいって、おもって、大変なつらい思いを、してきたんでしょうね、きっと」
「世間は容赦しませんからね」
「それどころか、いい食い物にされてしまうんですよ」
「くいもの?」
「あの座長、ね、はやいはなし、体のいい女衒じゃないですか」
アリのいうとおりだった。軍の慰安所など、もともと存在しない。あるのは、軍に慰安サービスを提供する業者連中だ。かれらがどんな顔をしているのか、オレが知る由もない。なかには、あの茶髪のように、すんなりと、旅芸人一座を率いる座長、という体裁を整えているヤツもいるだろう。軍には重宝がられ座員には頼りがいのある元締めになるからだ。
「結局、そういうことに、なりますかね」
「野卑で無教養、利に聡くて鼻が利く、欲が深く物にこだわるが情に抗いきれない軟なヤツ、てとこです」
「ずいぶん手厳しいですね」
「いや、褒めてるんですよ」
「褒めてる?」
「でなければ、レイラは生きのびてこられなかった、レイラがわたしの前に現れたのも、あの茶髪がいたおかげなんですよ、あの貪欲なお人よし、がね」
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