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憮然としてオレは訊いた。
「キミもそうおもうのか? キーのありなしを確認する、それだけがサービスの中身だと?」
「ていうよりも、あまり出入りを気にしすぎると、お客さんの方で見張られてるって感じに、なりませんか、まずいですよ、それって」
なるほど、サービスも度を超すとプライバシーの侵害になる、というわけか。一見、もっともらしい理屈だが、それで客人の安全が担保されるとはおもえない。
「なあヤシン、気持ちは分かるけど、客人の安全を考えると、どうなんだろう、サービスとして充分なのかね」
「お客さん、いいですか、ここにキーがあるということは、ですね」
いきなりフロントの一人が口を挟んできた。
「お客さんは外出中、ということなんですよ、ということは、つまり、ホテルの責任の範疇外、ということになりますよね」
「しかし、カギ箱にキーがあるからって、必ずしも外出中、てことにはならないんじゃないですか?」
オレは、刺激しないように、語調をよわめていった。
「キーがそこにあるからって、庭とか廊下とか食堂とか、施設内のどこかで、うろうろしてることだって、ありうることでしょう?」
「でも、部屋にいないことは、たしかですよね」
ヤシンが反論した。
「なあ、ヤシン」
オレはヤシンに照準を合わせ、説得にかかった。
「たとえば、こんな状況って、考えられないかな、つまり、客が部屋にいるときに、だれかがドアをノックする、客は、来訪の心当たりがないので、だれかな、と首をかしげる、が、放っておくわけにもいかない、そこで仕方なくドアを開ける、とたんに未知の来訪者が室内に押し入り、客の自由を奪い、拘束し、金品を奪って逃走する、その際も、抜け目なくドアキーは、ちゃんとフロントに返しておく…」
「ハハハ、ノン、ノン、ノン、ノン!」
ヤシンが嘲笑していった。
「そんなこと、ありえない! ありえない!ムリ、ムリ、それこそお客さん、映画の見過ぎですよ!」
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