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「そうかな、ありえないかな」
「ありえない」
「絶対に?」
「絶対に、ありえません!」
「ヤシン、キミは今日、遅番じゃなかったのですか?」
「そうです、さっき交代したばかりですが、なにか」
「フロントも、キミと同じ、遅番のひとたちでしょう?」
「そうですが、なにか?」
「フロントもそうですけど、ヤシンにしても、2208号室の住人が出かけるところを見たのですか?」
「見るわけ、ないじゃないですか」
かれらはまた異口同音に答えた。
「早番のクルーと、さっき交代したばかりなんだから」
「ということは、ですよ…」
これで、今日の結果は出せる、とオレはおもった。
「2208号室の住人が、フロントにドアキーを置いてでかけるところを目撃したひとはだれもいない、ということですよね」
「ですから、さっきからいってるじゃないですか、ドアキーがここにあるということは、部屋にはだれもいない、ということなんですよ」
「ホテルの作業標準からすれば、そうなのでしょうが、客人の安全からすれば、かなり事件性のある事態だと、おもいますよ」
「事件性?」
「はい、さっきはなしたように、2208号室で押し込み強盗があって、客人は室内にとじこめられたままだ、という可能性のことですよ」
「だから、それは、ミステリーの見過ぎです」
「いえ、ミステリーでもなんでも、関係者が不安におもっているのだから、その不安を取り除くのは、あなたがたホテル側の役目ではないでしょうか」
「不安を取り除く?…どうやって?」
「フロントの方でもヤシンでも、どちらかが、わたしを2208号室まで連れてってくださって、実際に室内にだれもいないことを確認できれば、それで事はすむんです、もし、それもできないとなると、こちらの不安は猜疑にかわるかもしれません、そしたら、ジェラルダにもモレッテイにも憲兵隊の駐屯所がありますから、残念ですが、そこへ行って頼むしかありませんねぇ」
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