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ヤシンが大口あけてわめきだした。痛いところを突かれたらしい。一方、フロントは、肩をしゃくって嘲笑したが、反発はしなかった。逆に、昂るヤシンを制し、手にキーを握らせ、一緒に行って確認してくるように言い含めた。
がらんとしたタイル張りの通路を、ヤシンがブツブツいいながら行く。オレは後を追いながらおもった。もし部屋に団長がいたら、無事でよかったという結果は出る。しかし、だれがドアキーをフロントに預けたか、という疑問はのこる。
「なあ、ヤシン」
オレは、先をいく客室係に訊いた。
「さっきは、なにをモメてたのかな、あのフロントの連中と?」
「モメる?」
「ああ、そのキーを、こうやって、ぶらぶらさせて、みなで言い合ってたじゃない、なにがあったのかな?」
ヤシンは振り向きもせず、だまったまま歩き続けた。
「なあ、ヤシン」
オレはこだわった。
「ちょっと気になってたんだけど、たしか、スタウエリに合鍵屋が一軒、あったよね」
「アイカギヤ?」
はじめて示すヤシンの反応だった。
「そう、スペアキーを造ってくれる店みたいなとこ」
「ああ、そういえば、金物屋が一軒ありますけど、それがなにか?」
「そうか、いやね、ホテル客が、ね、そこへ行って自分が借りてる部屋の合鍵を造ってもらう、なんてこと、すごく簡単にできてしまうんじゃないかと、おもったりしてね」
「ムリ、ムリ、ムリ、ムリです、そんなこと!」
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