赤い月

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     振りかえりざま、かれは端から否定した。さも自信ありげなその応対に、オレは違和感をおぼえた。 「おや、そんなにムリ、なんだ、でも、どうして?」 「セタンテルディ!セタンテルディ!セタンテルディ!」  かれはおなじ語句を三度、つよく繰りかえした。 「ほう、禁止なんだ、でも、どうして?」 「もちろん、個人が所有するキーなら、できますよ」  いいながらズボンの左ポケットからホルダーにまとめた数個のキーを取り出した。 「これ、わたし個人のキーです、これは禁止じゃない、でも…」  今度は右手に持ったホテルのドアキーを、オレの鼻先に突き出していった。 「でも、ほら、これ、ホテルのドアキーですよ、ね、ちゃんとホテル名の入ったアクリル板のホルダーにつけてあるでしょう、それに、このリング、ステンレス製で溶接してあるんですよ、絶対外せない、だいたい共有施設のキーは、ホルダーから取りはずせないようにできてるんですよ、どこのだれかも分からない旅行者がやってきて、その合鍵を造りたいなんて頼んだら、なんの魂胆でそうするのか、一目瞭然じゃないですか、だから、できないようにしてあるんです、できません、禁止です!もし違反したら、その店、営業停止です!」  いうと、くるりと踵を返し、団長の部屋に急いだ。    2208号室のドアは冷たく閉じられていた。人が出入りした生の気配はどこにもなかった。これでサービスの行きとどいたホテルの客室といえるのか?…。 「なあ、ヤシン」  オレは訊いた。 「客室って、毎日、掃除するもんなんだろう?」 「もちろんですよ!」  かれはむきになっていった。 「まいにち、きまった時間に、掃除婦が、シーツをとりかえ、ベットをつくり、便器を洗浄し、浴槽を洗い、鏡をみがいて、タオルをとりかえ、それから部屋中をきれいに掃除して、働いてんですよ、お客さん、それがサービスってもんじゃ、ないんですか?」
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