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「どうしたんですか、いま時間、こんなところで?」
怪訝そうに訊ねるオレに、校長が応えた。
「いえね、所長さん、昨日の夜、偶然、湾岸のレストランでミッションの方にお逢いしましてね、ちょうど今日、学校の遠足日でシュレアの山に行く計画を立ててたものですから、これはいい機会ですね、いかがですか、一緒にいらっしゃいませんか、とお誘いしたんですよ、そうしましたら、ぜひ、ということで」
「連れてってもらったんですよ、シュレアの山に」
地質担当が後を継いでいった。
「いやあ、シュレアっていいところですね、すっかり楽しませてもらいましたよ、なんせ、サクラ、あのサクラにそっくりな花のアーモンドの木が、そここに茂っていましてね」
「可愛いお子さんたちとかけっこしたり、一緒におにぎり食べたり、おかげさまで、今年は、二回も、楽しいいお花見、させていただきました、ほんとに校長先生、ありがとうございました!」
嬉々として掘削担当が礼を述べた。
そうか…迂闊といえば迂闊だった。団長のことばかり気にして他の団員の所在については、考えもしなかった。ひよっとしたら、団長や他の団員も一緒に、シュレアの遠足に参加していたのではないか…。
「じゃあ、団長や技師さんも、一緒に?…」
答えは否だった。加えて、他の三人とは休日にホテルで行動を共にしたことはない、ともいった。これではまともな意思疎通は成立しない。交渉団の実情を見せつけられた気がしたが、とにかく明日をまとうとおもった。よもや港で船を割るようなことはしないだろう…。
週明けの翌日、八時にフロントで待った。十五分後、つるりと垢の剥けた顔で、団長が現れた。意外だった。なにがあったのか?
「団長、きのうは、どこかへ、いらしてたんですか?…」
オレは意に反して恐る恐る訊ねた。
「いや…」
他人事のようにかれは応じた。
「…でも、どうして?」
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