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「実は、交渉の方が、だんだん、ややこしくなってきて、いくら経験豊富なローマ所長でも、きっと、ストレス、溜まってるんじゃないかと、ちょっと、心配になっていたものですから」
「いやいや、この種のストレスには、慣れてますから、ご心配にはおよびませんよ」
オレの皮肉をしれっと躱すと、団長は、車窓を過るモレッティの松林をながめた。かれのいる助手席から、不思議な充足感が伝わってくる。無能の長物としてついに居直ったか…と、オレはおもった。
「それなら結構なんです、とにかく、あと一か月しかありません、その間、実のある成果に手が届くよう頑張ります、なので、よろしくお願いいたします、団長」
「こちらこそ、よろしく、所長…」
樹林の照り返しが、団長の全身を、淡い緑色に染め上げていた。
法務省刑事局から電話が入ったのは、その日の夕刻だった。サハラの現場に連絡しようとしたが、回線が通じないので事務所に一報した、これをもって現場への正式通知に代えたい、という。また詳細勧告として、来週の週明け土曜日十時に公判を開き、被告人欠席裁判により殺人罪で有罪判決とし、諸般の自由により即国外追放処分とする、身元保証人を含む関係代理者は出席するように、とのことだった。
半年前の大洪水で壊滅状態に陥ったアトラス以南の通信状況に、まだ復旧の目途はたっていない。大方の民間企業は個別に衛星通信設備を備えている。いざというときの通信確保だ。わが社もサハラの現場には衛星通信アンテナを設置し、いつ何時でも地球規模の通信網を享受できるようになってはいるが、実際は緊急事態用だ。
現にアルジェ事務所には受信機が宛がわれていない。アトラス以北の地中海側に通信崩壊はありえないという判断がそうさるのだ。実際のところ、今回のような場合でも、事務所から通常回線で電話ないしテレックスで本社に連絡し、本社から衛星通信で現場に一報を入れる。このスキームで十分事態は乗り切ることは可能だ。オレはさっそく本社に緊急のテレックスを打った。
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