ことの始まり

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「それに、レイラという小女には、とても興味がある」 「そうか、オマエもレイラに、会ったのか」 「いや、レイラという小女には、遭ったこともなければ、見たこともない」 「隠すのはよせ。秘密主義はきらいだ。オマエも烏山の駅で、レイラと会ったのだろ?」 「何度も繰りかえすようだが、キミが烏山に行ったのは、もう十五年も前のことなのだ」 「またそうやって、ひとをキチガイ扱いする。オレがレイラと会ったのは、つい先日のことだ。オマエがここへ来る数日前の、からりと晴れた夕暮れどきに、千歳烏山の駅であったのだ」 「もう一度、これまでのことを整理してみよう」 「これまでの、なにを?」 「いいかい、キミが烏山でレイラに会ったとしよう。いや、キミはあの駅でたしかにレイラに会った。なぜなら、キミはあの市民センターに、必要書類をもらいにいったからだ」 「そうだ、旅券申請用の書類を、取りにいったのだ」 「キミが初めてアフリカに行くための、旅券取得のための、必要書類を取るためにだ」 「そのとおりだ、初めてのアフリカ行き、だった。それまでのマイナスを一気にプラスにかえる、起死回生のチャンス、だった」 「そのとき、あの駅で、もっと正確には、開札を出て、市民センターにつながる階段を上る途中で、レイラとすれちがった、そうだね?」 「そのとおりだ」 「そこでなぜキミは、その女がレイラだと、分かったのだ?」 「においだ、あのクミンのいり混じった刺激臭だ。北アフリカの、あの白い街の…」 「白い街の?」 「そうさ。北アフリカのパリといわれた、あのアルジェだ。オマエもよく知っているじゃないか。実際、オレとオマエが、久々に再会したのも、あの白い街だった」 「その通りだ」 「だったら、なんだ、その疑わしい目つきは」 「キミはさっき、クミンの入り混じった刺激臭でレイラを判別した、といったね」
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