スキとスキとスキの味

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 万理沙のことが好き。あたしは、好き。一番大好きな友達だから、彼女のいいところは誰より知っている。 「“あたしと、付き合ってください。貴女のことが好きです。だって貴女は……”」 「貴女は?」 「“とっても、友達思いで。見た目はすごく可愛いのに……いざという時は大切な人のために、体を張って助けようとする人で。そういう勇敢なところがすごく素敵で”」 「……うん」 「“か、変わった言動も多いけど、だから一緒にいて飽きなくて、楽しくて。こ、これからもずっと一緒にいたいので、付き合ってください!お願いします!”」  何だろう。ただの練習、なのに。なんでこんなに胸がドキドキするのだろう。  どうしてこんなに、あたしを見つめる万理沙が可愛く見えて仕方ないのだろう。これじゃ、本番みたいではないか。 「……じゃあ」  万理沙がコーヒーを入れたコップを置いた。 「次は私の番。しっかり聞いてね、薫子ちゃん」 「う、うん」 「私は薫子ちゃんが好き。……私のことを一番に分かってくれるのは薫子ちゃんだけ。人のいいところを見つけるのが上手くて、面倒見が良くて、優しくて……この子のためなら命を賭けてもいいって思えた、初めての友達。だから、私は薫子ちゃんがいいな」  だからね、と万理沙は笑う。 「私の彼女になってください!」  キラキラした、眩しい笑顔。ついつい本気にしてしまいそうになって――あたしはブンブンと首を横に振った。いけない、これはあくまで練習。告白の練習であって、本番じゃないのだから。 「そ、そのセリフは痺れたけど。あたし相手じゃないと使えない言葉が多すぎるかなー?それに、最後のはちゃんと言い換えないとね。彼女になってくだい、じゃ女のコ相手の告白になっちゃうじゃん?」 「うん、でもいいの」 「そりゃ、これ練習だからいいけど……」 「じゃなくて。本番にしちゃったから、これでいいの!」 「……ハイ?」  とっさに、言葉の意味が掴めなかった。ぽかんとするあたしに、万理沙は頬を染めて言うのである。 「惚れちゃったんだもん。薫子ちゃんの告白聞いて。……私が一番好きなの薫子ちゃんだって、薫子ちゃんより好きな人はいないってわかっちゃったんだもん」  彼女はその小さな手で、私の手をぎゅっと握ってくる。何度も何度も繋いできた親友の手。それ以上でもそれ以下でもなかったはずなのに――どうして今、こんなにもときめいてしまっているのだろう。  真剣にこちらを見つめてくる万理沙は、可愛いだけじゃない。なんでこんなに、かっこ良く見えてしまうのか。 「本番にさせてよ、薫子ちゃん。一生、私が薫子ちゃんを守るから!」 「ちょ」  それってほぼプロポーズじゃないか!とあたしが顔を覆ってひっくり返るまで五秒。  そもそも彼女が言っていた、“好みのタイプ”にあたしが全部当てはまってると気がつくまで五分。  親友だったはずの二人がこれからどうなるのかは――まさに神のみぞ知るところである。
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