スキとスキとスキの味

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 ***  ポケポケちゃん、なんて呼ばれることのある万理沙とは、幼稚園の頃からの付き合いになる。  無駄に背ばっかり高くて、昔は男と間違われることも少なくなかったあたしと違って、万理沙はとても女の子らしくて可愛らい少女だ。あたしより20cmも低いミニマムボディに、ロリっぽい童顔。ツインテールが似合う、贔屓目抜きでも美少女というやつである。  まあ、運動神経はあまりよくないし、成績も結構残念ではあるが――それはそれ、完璧超人よりも親しみが持てると言えば悪いことでもあるまい。  でもって、ものすごく天然。何考えてるかわからないから通訳してくれ、なんて別のクラスメートからあたしに依頼が来ることも少なくない。例えば。 『先生ー。隣のクラスの柿本君が、消火器を持って“汚物は消毒だヒャッハー!”とか言いながら廊下を爆走してたんですけど、止めたほうがいいですかぁ?』  給食の時間にこんなことを言い出したり。 『うっうっ……。私にかけっこで負けたせいで、リカちゃんが苛められて飛び降りしようとしたらなんか翼が生えちゃって、気が付いたら異世界にいて魔王陛下の部下になって地球に侵略しに来る夢を見て悲しくなっちゃった……。みんな、万が一のことがあってもリカちゃんを虐めたりしないでね!』  英語の授業中に居眠りをして起きたと思ったらこんなことを言って泣き出したり。 『はっ!……この実験に成功したら……私も魔法少女になれる!?』  理科の実験中にこんなことを言ってみんなをポカーンとさせたり。  どうにも、本人の思考回路話は摩訶不思議なものであるらしく、一般人にはなかなか理解不能なことが多いのだ。まあ、付き合いの長いあたしはだいたい想像がつくので、例えば最後の理科の実験の件なんかは“あーうん、昨日見てた魔法少女ネムのせいだな、悪の科学者が実験によって魔法少女を生み出してたのを思い出したんだな”とか想像がつくのだが。  とにかく、そんな不思議ちゃんな万理沙である。そこが可愛いといえば可愛いのだが、いかんせん発想が斜め上に行くことも少なくないのだ。  今だってそう。あたしの家で英語を教えていた矢先にこれである。何がどうして、突然告白の練習がしてみたいだのなんてことになるのか。 「万理沙はさ、恋のハードルぶち上げすぎなんだよ」  妄想モードに入ってしまった万理沙は、気になった問題をある程度片付けないと他のことが手につかなくなってしまう。あたしは英語の課題を一旦諦めて、彼女の話に付き合うことにしたのだった。
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