スキとスキとスキの味

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 ちなみに、あたしは別に一人でもレポートくらいは書ける。一般的な公立中学の中学二年生の英語なのでそう難しくもない。万理沙がてんで駄目なので、この勉強会は完全に彼女のために開催されてるのだった。 「どういうタイプが好きなんだっけ?言ってみ?」 「えっとねえ、背がすらっと高くてかっこよくて!」 「うん」 「私のいろんな好みをわかってくれてー、お喋りにまったり付き合ってくれてー、勉強教えてくれてー」 「う、うん」 「私の趣味をわかってくれてー、一緒にいて楽しくてー。それからそれから……魔法少女ネムみたいなアニメを一緒に楽しく見てくれて、馬鹿にしないくれる人かな!あとね、あとね、おやつのドーナツはんぶんこしてくれる人!薫子ちゃんがいつもやってくれるみたいにー」 「……あーうん」  これだよ、とあたしは頭を抱える。外見面はまあいいとしよう。彼女の希望の大半が、内面の方に偏っているのが問題なのだ。  例えば万理沙の不思議すぎる言動に毎回付き合って、お喋りを継続できる人間が少ない。  魔法少女ネムみたいな、女児向けのアニメ(しかも萌要素が一切ない)を楽しめる男子も多くはないだろう。  そして、毎回脱線しまくる彼女との勉強会に、根気強く付き合える人間などあたしくらいなものである。 「正直に言うとね」  困ったように笑う万理沙。 「私がその人を好きになれるかどうかより、好きになってもらえるかどうかがわからないから、怖くて好きになれないの。だって、私が相手を好きになっても……相手が私を受け止めてくれなかったらどうしようって、そんなこと思わない?」 「恋愛ってそういうもんだろ?」 「わかってるよ薫子ちゃん。でもね、私……自分が変わってるっていうのわかってるし。薫子ちゃみたいに美人じゃないから、見た目も自信なくてね……」  少しだけ驚いた。まさか、万理沙があたしのことを美人だなんて思っているとは思わなかったから。 「あたしのどこが美人だよ、こんなガサツなデカ女。万理沙のがずっと可愛いって、自信持ちな」  思わず言うと、万理沙はぷくーっと頬を膨らませたのだった。 「薫子ちゃんに可愛いって言ってもらえるのは嬉しいけど、でも駄目なの。いくら薫子ちゃん本人でも、薫子ちゃんの悪口は駄目。怒るよ」 「そんな大袈裟な」 「怒るよ!私の大事な薫子ちゃんに、酷いこと言わないでよね!」 「…………」  こういうところがあるから、自分は万理沙と友達やってるんだよなぁ、と思う。  天然ボケな不思議ちゃん。きっとクラスメートの大半にそう思われているであろう彼女。――そんな彼女の、一番魅力的な部分を知っている人間が、果たして他に何人いるだろうか。
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