スキとスキとスキの味

4/5
前へ
/5ページ
次へ
 ***  どうにも万理沙は、素敵な告白をすることが“相手に好きになって貰える第一歩”だと思っているらしい。告白の練習をさせてほしい、というのはそういうことのようだった。シチュエーションとか、セリフとか。そういうものを“好きな人が現れる前に”練習しておきたいと言うのだ。 「ふいー!やっぱり薫子ちゃんの入れてくれたコーヒーに限るう!」  すっかり勉強そっちのけで、告白練習会のモードになってしまっている万理沙。あたしが入れたコーヒーにご満悦である。といっても、超甘党な彼女にあわせて、いつものようにミルクと砂糖を大量投下しただけなのだが。  そりゃ、一般的なコーヒーでは美味しくないはずである。もはやカフェオレ通り越してコーヒー牛乳なのだから。 「甘すぎてもはやコーヒーじゃない!ってパパとかには怒られちゃうんだけどね!薫子ちゃんは私が大好きなコーヒー入れてくれるからうれしー!」 「そりゃ長ーい付き合いですからね。まったくもう。……で、告白の練習って、あたしは何をすりゃいーのよ」 「えっとねえ。告白のお手本見せてほしいなって。だって薫子ちゃんも彼氏いないでしょ?いい勉強きなるんじゃないかな!」 「うっせーわ」  告白なんて、あたしだってしたことないのに。というか実のところ、あたしも偉そうに言えるほど恋愛ってやつがわかっているわけではないのだ。  本気で誰かを好きになったことが、あるわけでもない。  というか、小さな頃から体が大きかったせいで、男子にからかわれて嫌な思いをすることが多かったのだ。だから、元々男の子があまり好きでもないのである。今でこそそうでもないが、幼稚園の頃は結構泣き虫だったあたし。男の子に悪口を言われて半泣きになっていると、いつも助けてくれたのは――あたしよりずっと体が小さな、万理沙だったのである。 『こらぁぁぁぁ!薫子ちゃんをいじめるな、こんにゃろおおおおおお!』  けして運動神経がいいわけでもない。それでも彼女はいつも、いじめっ子に立ち向かってくれた。誰よりも友達を、特にあたしのことを大切にしてくれたのだ。  あたしにとって彼女は親友であると同時に恩人でもある。だからこそ、ちょっと摩訶不思議な言動で振り回されたところで嫌になるようなことはないのだ。それもまた、彼女の魅力だと受け入れているからこそ。 ――だから、助けられることならなんでもしたい、けど。  告白。  本当に好きな人に向かって、愛を告げる言葉。そんなもの、どうやって言えばいいのだろう。 「お願い、薫子ちゃん!」  万理沙はあざとく上目遣いである。 「私のこと、好きな相手だと思って……最高にかっこいい告白のお手本見せて!ね、ね!」 「しょうがないなぁ……」  あたしのことをじっと見つめる万理沙。キラキラした大きな瞳の中に、あたしの戸惑った顔が映っている。  深呼吸して、一言。 「“西田万理沙さん”」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加