王女様とボク

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 私は騎士団が鳴らす朝礼の音色を聴きながら、最後の身支度を済ませ、部屋を飛び出した。  人を避けるため、練りに練ったルートを選択し、私に対して一番目を光らせている騎士団長のユリアや世話係のエマニアには決して見つからないよう、そのまま王宮を飛び出し、多く店が立ち並ぶ中央通りを目指した。  今頃、ユリアが王国の憲兵たちに対して朝の挨拶を仰々しく行っていることだろう。  二人に見つかると厄介で、すぐに部屋に戻されてしまうのは目に見えている、特に騎士団長のユリアに見つかれば通常の三倍の学習課題を用意されるか、鍛錬と称して剣の稽古に付き合わされることになるだろう。  私は旅に出られる体力があれば十分で、これ以上筋肉を身体に付けたいわけではなかったので、激怒するユリアの常軌を逸した根性論に付き合わされるのはごめんだった。  私の名前はサリア・ダスカルタ。  通算何度目かの脱走を私は果たし、中央通りまで到着すると肩の力を抜いた。とりあえず見つからずに城を出れたことで安心できた。  普段はティアラを付け、豪華なドレスで王女としての務めに従事する私だが、今日は市民に紛れるため、模様の入った白いシャツに黒のショートパンツを履き、紺色のフード付きコートを着ていた。  砂漠に囲まれたダスカルタ王国ではこういった格好は普段着として愛用している人も多く、紛れるには最適だった。  こうして城下町を普段とは違う恰好と化粧を施し何食わぬ顔で歩いていれば、普段は天蓋付きのシルクのベッドで就寝している、この国の王女様とは思われないだろう。  目立ってしまう金色のロングヘア―の髪をフードで隠しながら、町並みを歩いていると、何やら身ぐるみを剥がされそうになっているのか、売女にされそうになっているのか判断付かない白い肌の少女を目撃した。  随分ひ弱そうな体格をしていて、大人しそうなのに、二人組の男に絡まれているのが遠目に分かった。  確かに白い髪をしていて、育ちの良さそうな綺麗な顔立ちをしているので、こうも大人しそうにしていると、ナンパの類はありそうだ。  しかし、今回は強引そうなので、無視することは良心が働いてしまって出来なかった。    私は恐れる必要もないと判断し、迷いなく二人組の男に対して、手元に持参している騎士団の手帳を身分証代わりに見せつけた。 「あなた達!! 10秒以内にこの場から立ち去らなかったら牢屋行きよ!!」  私が一喝して言い放つと、二人組の男は瞬時に腰を抜かした。 「ひぃぃぃぃ!! なんでこんなところに騎士団がぁっっ!!」 「に、逃げるぞーーー!!!」  多少抵抗してくれた方が面白いのに、私の私物でもない手帳一つで二人組の男は逃げ去っていった。  やはりこの”武器”は役に立つ、改めて私は思った。  彼らが恐れる気持ちは分からないでもないが……。  なにせ、この国の囚人に対する拷問は群を抜いて恐ろしいことで有名だ。  特に売春や性暴力などしようものなら三日は食事抜きで労働を課されることを選ぶか、より残酷な仕打ちが待ち受けている、シャバの空気を吸えた人間の方が少ないといっていい。  心底、見逃してやっただけ優しさと言っていいだろう。  そんなに罪人に対して酷い冷遇をしているのは隣国の影響もあるのだけど、それはこの際言及することじゃないだろう。
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