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「それから人を撃つ時には、何の感情もわかなくなったよ」
と言って、一口お茶を飲み、
「少し前まで話していた仲間が、一人また一人と倒れていっても何も思わなくなった。ただ、」
と言って、少し間をあけてから、
「夜寝ようとすると体が震えて寝れなかったよ。死への恐怖と感情をもたない人間になってしまったのかと思ってね」
と言って、再び目を閉じた。
銀杏の葉を揺らす風は心地よかったが、僕は喉の渇きをおぼえ、缶のプルタブを開けてコーヒーを一口飲んだ。
「しばらくして私は、病気になって日本に帰ってきたんだ」
と、再び老人は話し始め、
「療養中に戦争が終わり、私のいた部隊の人達はみな戦死したと後から聞いたよ」
と言って、目を開けてボリュームの方を見た。
「そうなんですか」
としか僕は言えなかった。
「君のような若者にこんな話して申し訳なかったね」
と老人は微笑みながら言い、
「家族にも他の人にもこのことは話したこと無いんだよ」
と青空を見ながら言った。
「今まで本でしか読んだこと無かったのでとても貴重なお話ありがとうございます」
と僕が言うと、
「それにしてもなかなか戦争は無くならないね」
と老人は言って、
「私のような経験をした人はたくさんいるだろうね。こういう思いをするのは私達だけで終わりになってほしい」
と再び目を閉じて言った。
「そうですね。まだ世界のあちこちで戦争がありますね」
と僕が言うと、
「小さい頃ここの神社で友達とたくさん遊んだ。あの頃に戻りたいよ」
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