銀杏

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大学の通学路に小さい神社がある。 石で出来た所々欠けている鳥居 大きな銀杏の木 古い本殿 ちょっと場違いかなと思える新しい公民館 目立たないどこにでもある神社なので、自転車で素通りしていたが、ある日ふと通りがけに見ると杖をついた老人が参詣していた。 その時はとくに何も思わなかったが、その後何日か通るたびに老人を見かけるようになった。 講義が午前中だけだったので、家へと自転車を漕いで戻っているといつもの老人が、ゆっくりとした足取りで神社の鳥居を潜っていくのが見えた。 僕は、公民館の脇に自転車を停め、近くの自販機の冷たいお茶とコーヒーを買い、大きな銀杏の木の下にあるベンチの前で、老人の参詣が終わるのを待っていた。 緑の葉が生い茂り、夏の強い日差しを遮ってくれる。 参詣を終えた老人が、杖をつきながらゆっくりと鳥居へと続く石畳の上を歩いてくる。 「こつ、こつ」 と杖の音が近づいてきた時、 「あのー」 と僕が声をかけると老人は僕の方に顔を向けた。 「暑い中ご苦労様です。暑いので少し休まれた方がいいですよ」 と言って、老人にお茶を差し出した。 老人が、怪訝そうな顔をしたので、 「どうぞ」 と再度笑顔で言うと、 「じゃあ、遠慮なく。ありがとう」 と老人は笑顔で言って、杖を持っていない手でお茶を受け取りベンチに座った。 僕も老人の隣りに座り、 「毎日参詣されているのですか?」 と聞くと、 「そうだね」 と老人は答え、缶のプルタブをあけて、お茶を一口飲み、
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