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やってはいけない。
禁止されている。
お勧めできない。
やめた方がいい。
そんな風に言われることには、全部何かしらの理由がある。駄目と言われる理由がわからないなら尚更、原因がわかるまでは従っておいたほうが無難であることが多い。炎上系ユーチューバーなんてものをやってる俺達もわかっていたつもりだった。だから、本当に犯罪になることや、命の危険があることだけはやらない。ルールを破るのは大してリスクがないことにしようと決めていた筈だったのである。
大してリスクがないかどうか、なんて。今回はそれさえわかっていなかったというのに。
「せーのっ!」
俺達はトキマ自動車の本社ビルの周辺、ぐるりと取り囲むように設置された消音装置の機械の前に立ち――スマホで撮影しながら、一瞬だけスイッチを切るという悪戯をしたのだ。今日、なんとか星人が来訪してきているという情報をキャッチしていたから。
確かに、装置が一般人にも簡単に触れるくらい簡単なもので、しかも見張りをつけていなかったのはトキマ自動車の人たちのミスだったことだろう。それは、彼らも本当に“やってはいけないこと”の理由がわかっていなかったからに他ならない。
「キ」
だとしてもだ。言い訳なんか出来るはずないのである。
俺とブリがスイッチを切って数秒後。ビルの中から、黒板を引っ掻くような不快な金属音が響き渡ったのだ。
「キ、キ、キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!」
そして。
俺達は見た。半狂乱になった円錐型の異星人が、ビルの窓ガラスを突き破って飛び出してくるのを。
「な、何が起きたんだ?」
俺は思わず呟いた。そして、次の瞬間喉を抑えたのである。隣でブリも、金魚のように口をパクパクさせながら青ざめていた。
金属音が止んだ途端、すべての音が消えていたのだ。ブリが喋る声どころか、俺自身の声さえ聞こえなくなっていた。ブリも同じ状態だった。いや、俺達だけじゃない。
近くの住宅街から、車から、次々人々が降りてきて大混乱に陥っている。みんな思い思いに喚いているのに、まったく互いの意思疎通が取れている気配がない。
その日。日本という国は、すべての音を失った。
静けさの中で、俺達は自分がどれほど取り返しがつかないやらかしをしたのかを悟ったのである。
後にわかったこと。あのサイバス星人は、別名“音喰らい”と言うらしい。普段は賢く温厚だが、彼らのご馳走は“音”であり、音を聞くと理性を失って暴走してしまうというのだ。消音装置はそのために設置されていたのである。理性を失ったサイバス星人は、所構わず音という音を吸収して食べ尽くしてしまうから。
サイバス星人が通った場所からは、すべての音が消え失せてしまう。
たった一日で、日本という国は全ての声を、歌を、音を失った。そして、被害は日本だけに留まらなかったのだ。
『君達はなんてことをしてくれたんだ!責任をどうつもりなんだ、ええ!?』
警察の偉い人が、怒りのままボードに書きなぐった文字を見けつけてくるのを。俺とブリは震えながら見つめるしかなかったのである。
世界中が音を失うまで、あと――。
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