音喰らいマイケル

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 消音結界装置。それも、異星人が来るようになってから開発された装置の一つだ。ぐるりと取り囲んだ空間、もしくは装備した人間の周囲からあらゆる音を吸収してしまうというものである。スイッチを入れると電磁波?やらなんやらのシールドが発生して、周辺に完全無音の空間を作ってくれるらしい。その装置が作動しているエリアや装備者は、いくら喋っても動いてもまったく声や音を立てることができなくなるのだ。  これは、音が気になって仕事や作業に集中できない人を助けるためのものとして開発された設備だった。  それを作動させて会談を行っているということは、サイバス星人とやらは音が嫌いなのだろうか?もしくはものすごく音に敏感で、近くで音や声がしてしまうと仕事にならないとかそういうことだろうか?  しかし音がないとなると、会談や会議を行ってもやり取りは全て文字を介さなければならなくなる。筆談にせよタブレットを使うにせよ、不便極まりないのは間違いないと思うのだが。 「なんでそんなもの使ってんだよ。よっぽとサイバス星人ってのはビビリなのか?」  俺が至極真っ当なツッコミをすると、実はな、とブリが返してきた。 「何でも、宇宙情報屋が教えてくれたらしい。サイバス星人は友好的だし高い科学技術も持ってるけど、取引したいんなら絶対に消音装置を使ったほうがええって。音や声を出さんほうがええっちゅう話や」 「何で?」 「それがわからんねんて。まあ、マジでビビリなのかもしれへんけどな。あの姿やし、何考えてるかまったくわからんし」 「ビビっててもわからなそうだよな」 「ホンマにな」  そこまで話を聞いて、ようやく俺もピンと来た。面白い情報。彼がそう言ってこの件を語り始めたのを思い出したからだ。  彼がそう言い出すのは基本、いい動画のネタを見つけた時だ。 「本気かよ」  一応ツッコミ入れたが、俺の声にも隠しきれない高揚が滲んでいたことだろう。よりにもよってブリは、異星人にちょっかいをかけてみようというのである。つまり、見えてる地雷を踏んだらどうなるか、を実況しようというのだ。  政府が特別に歓待するような相手。大炎上間違いなしである。裏を返せばそれだけ再生数が期待できるということでもあって。 「おもろそうやん?」  ブリはニヤリと笑って言う。 「自分も思ってたんとちゃう?そろそろぱーっと……ど派手に騒がせるようなネタやってみたいって。そのチャンスが、今回巡ってきたっちゅーことや。なんせトキマ自動車の本社、この大学の近所やもんなぁ?」
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