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「ちょっと、寝癖直ってないわよ」
「別にデートじゃないんだから」
「何処で誰に見られてるか分からないのよ。さっさと直して来なさい!」
「ほ〜い」
洗面所で鏡を見た。うん、確かに髪が変な方を向いている。蛇口をひねり水を手に取り髪を濡らした。これで良し……。
「ちゃんとドライヤー掛けなさい! 濡れたまま出掛けるつもり? もう、若葉ったら……」
お母さんは怒り疲れたようだ。大人しくなった所で私は「行ってきます」と元気良く家を飛び出した。
家計が苦しくてイライラするのは分かる。でもあんなに怒るとシワになっちゃう。それに血圧も心配。
人間って面倒臭い。働いてお金を稼いで、そのお金で買い物をして料理を作って。
人間も植物みたいだったら良かったのに。のんびり風に吹かれ、土から栄養を吸収し太陽からエネルギーをもらう。時々雨が降ってくれたら元気になれる。ああ、花に生まれてくれば良かった。
「あ、こんにちは」
お隣のおばさんは買い物帰りらしく、エコバッグを下げていた。おばさんは小さく頭を下げると私と目も合わさず家に入ってしまった。
昔はいつもニコニコしていてお洒落だった。なのに今は私よりもボサボサな頭をしている。顔にシワはないが無表情だ。能面のよう。
俊介お兄ちゃんが行方不明になってからだ。
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