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「信じらんないっ。もういい!」
しかし、突如穏やかな空気を切り裂くように、甲高い声と共にパシンッと手を叩いたような弾力のある衝撃音が響いた。
音がした後方へと目を向ければ、そこには怒ったように屋上の出入口に向かう女子生徒の姿があり、その姿を捉えた直後扉を叩き閉めるようにして校舎に入っていった。
どうやら、俺のいる角とは対極の位置に人がいたらしい。あちら側には貯水タンクがあり、その裏はこちらからは死角となっているので気が付かなかった。
ただ先程まで気が付かなかったということは、それまでは静かに過ごしていたということだ。何かが発端で喧嘩にでも発展したのだろう。
そんな憶測をしつつ、誰と喧嘩したのだろうという好奇心からそのまま貯水タンクの方を眺めていた。少しして、そこから現れた姿を見て、俺は目が離せなくなった。
面倒くさそうに頭を掻き、舌打ちでも聞こえてきそうな苛立った表情をした男子生徒。日差しに照らされた髪は明るく、キラキラと輝く茶髪は、先程見ていた海のように美しく見えた。
思わず見惚れていると、俺の気配を感じ取ったのか、顔を上げた視線とぶつかりあった。くっきりとした二重は鋭く、明るい髪も相まって、獲物を狙う虎のようにも見え、思わぬ気迫に背筋が伸びる。
しかし、それでもその生徒から目を逸らすことが出来なかった。存在そのものが輝いて見えるほど、その姿が美しかったからである。
あの人は、一体誰なのだろう。
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