虎と兎の出会い

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 そう思いながら見つめていると、その生徒は視線を逸らすことなく、こちらに真っ直ぐ歩いてきた。  怒鳴られるのではないかという恐怖に体は強ばり、虎に睨まれた小動物のように身動きが取れず、ただその姿を見つめ続ける。 「お前、そこで何やってんの?」  しかし、思ったより柔らかい声音で話しかけられ、先程鋭かった目つきも幾分マシになった。それでも眼光には鋭さを感じ、彫刻のように整った顔立ちがそう見せるのかもしれない。 「絵を、描いてました」 「趣味?」 「まぁ、半分は。美術部なので、部活動でもありますけど」 「へぇ、うまいじゃん。お前まだここで描く?」 「その予定ですけど、邪魔ですか?」 「違う違う、逆だよ。膝貸せよ。俺の枕になって」 「へっ?」  想定外の申し出に素っ頓狂な声が漏れ、その生徒は可笑しそうに口角を上げた。その隙間から、尖った八重歯が覗いた。 「虎だ……」  俺は思わずそんなことを口走っていた。  綺麗に輝くオレンジがかった茶髪に、くっきりとした鋭い瞳。そこに尖った八重歯が見え、虎の化身のようにも感じる程似合っている姿に、思ったことを思いとどめることが出来なかった。  しまったと思って口を塞ぐように手を当てたが、時既に遅しである。気分を害したら、先程の鋭い瞳で睨まれながら怒鳴られるのではないだろうか。  
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