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「何だ、俺のこと知ってんの?」
「え? どういう事ですか?」
またしても予想に反した回答に、俺は首を傾げつつ問いかける。
「俺の名前、芥見春虎。知らないなら何で虎って言ったんだよ」
これは、正直に答えたら怒られるのだろうか。
しかし、今のところ怒るような素振りは無いし、機嫌が悪くなるような感じでもない。答えても、気分を害させないだろうか。
「あの、見た目が、虎っぽかったので……。髪、明るいですし、八重歯が特徴的で……」
怒られませんようにと願いながら答えたその内容に、『そういうこと』と納得するように呟き、俺の隣に座った。
怖そうな見た目とは裏腹に、悪い人では無いのかもしれないと思い始めた時、その人は何も言わずにベンチの空いたスペースに寝転がり、俺の膝に頭を乗せた。
「えっ、あのっ」
「いいだろ、邪魔しないから。天気もいいし、昼寝したい気分だから。お前が帰る時に起こしてくれればいいよ」
突然のことに戸惑う俺を尻目に、その人は仰向けで膝を立て、目を瞑った。それを俺は拒絶することも出来ず、体勢を整えられてしまえば、邪魔しないように身動きも取れなくなる。
「そーいえばお前、名前は?」
「兎田、雪乃です……」
「雪うさぎかよ。可愛い名前だな」
目を閉じたまま、柔らかく笑う姿に胸がギュッと締め付けられた。
苗字の兎に、雪乃という女性らしい名前をからかわれることはよくあり、可愛い名前だと言われたことも一度や二度の話では無い。
それなのに、どうして今、俺の心臓はこんなにも強く叩きつけているのだろう。恥ずかしいような、くすぐったいような、不思議な感覚がする。
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