桜の花が咲く頃に

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 茶道部を選んだのはとくに何か目的があったわけじゃない。他に入れると思う文化系の部活がなかったからだ。  楽器なんてひとつもできないから吹奏楽部は無理だし、絵なんか描けないから当然美術部も除外。何をしているのかすらよくわからない文芸部を除いたらもう茶道部しか残っていなかった。  部員は8人。そこにわたしたち1年生が4人入部した。部活は毎週木曜日。  礼儀とか作法とか厳しかったりするのかな、と緊張してたのだけど、入ってみたらそんなこともなく、全体的にのんびりした雰囲気だった。  むしろ難敵だったのは正座。普段正座なんかしないもんだから足がジンジン痺れちゃって立ち上がるのに一苦労。これはホントに困るのだ。  顧問の斉藤(さいとう)先生は「親指をかわりばんこに交差させれば痺れないわよ」というけど、わたしはいまだに成功した試しがない。  お盆休み、おばあちゃんちに遊びに行ったとき聞いてみた。  「ねぇ、おばあちゃんは足痺れたりしないの?」 「しないねえ」 「何かコツみたいなのあるの?」 「コツなんてないよぉ」 「ないのォ?」 「毎日座ってるから慣れちゃった」 「慣れかぁ」  それを言われたら仕方がない。秋のお茶会までに慣れるのか心配になってきた。  そんなことを言ったら、お茶会するのかいと聞かれた。  茶道部は春と秋にお茶会を行うのだ。 「じゃあおばあちゃんの着物あげようか」 「ホント!?」 「うん。おばあちゃんの若いときに着たものだから気に入るかわからないけどね」  おばあちゃんは押し入れのある方向に目を向けると、どこにしまったかねぇ……とちょっと困った顔をした。そして、ごめんねぇ今度見つけて送るから、と申し訳なさそうに言った。
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