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「あった」
つい口から漏れてしまった。あの頃のことを思い出すのに、このCDを探さずにはいられなかった。思い返せば長らく彼の音楽を聴いていない。意識したわけではいないが、あの子がいなくなってから聴かなくなったように感じる。思い出してしまうと、無意識に避けていたのだろうか。
ケースを開けると、ほのかにあの子の匂いがした。いいやそんなはずはない。きっと気のせいなのだろう。でも確かにした気がするのだ。
一緒に物置に置いてあったプレイヤーにセットする。今時こんなものを持っている家の方が少ないのだろう。CDは大丈夫だろうがこっちは少し心配だ。ちゃんとかかるだろうか、不安になりながら再生ボタンを押す。
-音楽は、無事に流れた。誤作動を起こすこともなく音も綺麗なままだ。しかし、プレイヤーかCDか、やはり壊れているらしい。
どうにもあの子の匂いがしてならないのだ。
すっかり冷え切った秋の夕方。2人の帰り道。一緒に食べたたいやき。真っ赤に染まった紅葉の木。日陰で夕日は当たっていないはずなのに、君の頬は赤かった。寒かったのだろうか、いやきっとそうなのだろう。私の頬も赤かったのだから。
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