届かぬ思い

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***  結婚して十年。主人が義伯父さんの会社を継ぐと言った時、一抹の不安がよぎった。義伯父さんの会社は実家から比較的近いところにあったのだ。  まさかね。母はそこまで私に関心はないはず。  ところが私の不安は的中した。それまで主人の仕事の都合で実家とは離れたところに暮らしていた生活は一変した。したこともない事務仕事に追われている私の辛さを理解できない母は、何かと理由をつけてうちにやってくるようになった。二年経った今はもはや理由もなくやってくる。 「お母さん、私、忙しいんだよ」    何度か口にした言葉は母には届かなかった。  昔からそうだった。私の勇気のかけらは母の耳には入らない。入ったとしても心に残らない。  母は日曜日、洗濯が終わったころにやってきて、うちで昼ご飯を食べ、お茶を飲んで主人が帰ってくる前にやっと帰っていく。その間、私は母から同じような指摘を受けて、同じような世間話と愚痴を聞かされて、仕方なく相槌を打つのだ。    早く主人が帰ってくる時間になればいいのに。  
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