届かぬ思い

5/9
前へ
/9ページ
次へ
 母はボリボリとせんべいを齧りながらも喋るのをやめない。 「もう少しで修治さん帰ってくるかしら。あんた、修治さんとお義父さんお義母さんに感謝しなさいよ? 子供ができない嫁なんて昔は離婚されても仕方ないんだからね。本当、よく文句も言わずあんたを受け入れてるわよ」  ぽたぽたっ!  そんなことは私が一番分かっている。  義両親は口に出さないだけだ。  主人がどんな思いをしてるかも、母に分かるはずがない。 「子宮内膜症で子供ができにくいとはいえ、今は不妊治療もできるのに、どうしてしないの?」  母の口は止まらない。 「……不妊治療にはお金が凄くかかるんだよ。会社に何かあった時のためにお金を貯めとかないと。銀行から借金すると利子がつくから」 「また会社が理由? まあ、確かに会社経営する側も大変なんだろうけど」  母に経営者側の立場は一生分からない。そんな陳腐な口先だけの言葉なんか聞きたくない。 「それでも、女としての義務より優るものなのかしらね」  ぼたっ!  もう苦しい。  母の口を塞ぎたい。 「このままだと、あんたたちを育てたあたしの苦労はあんたには分からないままね」  私は自分が黒いものの中で溺れて息ができなくなるのを感じた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加