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母はボリボリとせんべいを齧りながらも喋るのをやめない。
「もう少しで修治さん帰ってくるかしら。あんた、修治さんとお義父さんお義母さんに感謝しなさいよ? 子供ができない嫁なんて昔は離婚されても仕方ないんだからね。本当、よく文句も言わずあんたを受け入れてるわよ」
ぽたぽたっ!
そんなことは私が一番分かっている。
義両親は口に出さないだけだ。
主人がどんな思いをしてるかも、母に分かるはずがない。
「子宮内膜症で子供ができにくいとはいえ、今は不妊治療もできるのに、どうしてしないの?」
母の口は止まらない。
「……不妊治療にはお金が凄くかかるんだよ。会社に何かあった時のためにお金を貯めとかないと。銀行から借金すると利子がつくから」
「また会社が理由? まあ、確かに会社経営する側も大変なんだろうけど」
母に経営者側の立場は一生分からない。そんな陳腐な口先だけの言葉なんか聞きたくない。
「それでも、女としての義務より優るものなのかしらね」
ぼたっ!
もう苦しい。
母の口を塞ぎたい。
「このままだと、あんたたちを育てたあたしの苦労はあんたには分からないままね」
私は自分が黒いものの中で溺れて息ができなくなるのを感じた。
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