届かぬ思い

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「……お母さんにも私の苦労は分からないよ。私はお母さんの苦労、分からなくていい。私が子供を作らないのは子宮内膜症のせいじゃない。お母さんみたいな母親になりたくないからだから! 私は子供に私と同じ思いはさせたくない! そうなるくらいなら子供はいなくてもいい!」  気がつくと私は心に溜まった黒いものをぶちまけるように叫んでいた。  一瞬の静寂。  母はせんべいを手にぽかんと私を見ている。    ああ。ついに言った。言えた。  言ってしまったという感覚はなかった。  久しぶりに頭の中も静かになった。  一瞬が長く感じられて、私はその時だけ息ができた気がした。 「あ、あんたね!」  静謐を破ったのは震える母の声。 「お腹を痛めて産んだ母親に、よくもそんなことが言えるわね! あんたなんか産まなきゃよかった!」  母は顔を真っ赤にして涙ぐみながら捲し立てた。  ああ。やはりこの人には分からない。私の一生分の叫びさえ届かない。 「ごめんなさい。……もう帰って。もううちに来ないで」  私は抵抗する母の手を引いて、玄関に連れて行き、 「あんたなんか! あんたなんか!」  と喚き散らす母を靴と一緒にドアの外に出して鍵を閉めた。  ドンドンと母が玄関のドアを叩く音がしたけれど、私はそれを無視して台所へ戻った。  無心でピーマンを切る。味噌汁にはにんじんと大根、豆腐、ぶなしめじを入れよう。  母は諦めて帰ったようだ。  私がほっとため息をついた時、静けさを破るようにスマホが鳴り出した。私はどきりとして通知を見る。主人からだった。
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