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「ただいま」
主人が帰ってきた。その顔には疲れが滲んでいる。それなのに主人は両手を広げて、
「ん?」
と言ってくれる。
主人の下がり眉の顔を見て、私は彼の胸に顔を埋めて今日初めて涙を流した。それからは子供のように泣きじゃくった。
「きつかったな。悪いな、仕事で一緒にいてやれなくて」
私は頭を横に振る。
「もっと早く帰ってくるようにするから」
「修治さん、ごめんね。いつも私のことばかり考えてくれてありがとう」
「幸代だって僕のために会社の仕事手伝ってくれてるじゃないか。夫婦なんだから持ちつ持たれつでいいんだよ」
優しい優しい修治さん。
ありがたい。感謝でいっぱいになる。同時に罪悪感もちくちくと心を刺す。私は主人の願いを叶えられない。主人は心も体も健やかな人と結婚した方が良かったのではないか。毎日のように考える。
「幸代?」
「私でごめん。子供を産んであげられなくてごめん」
「それはもう決めたことじゃないか。僕が幸代を選んだんだよ? 幸代がそんなこと言う必要はない。馬鹿だな」
主人は私を抱く手に力を込めた。
ますます涙が止まらなくなった。
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