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「ちょ、きょ、恭子、泣くなよ」
優介は狼狽え始めたけど、涙が止む気配はない。
まるで、窓ガラスを打ち付けている雨みたい...。
「ご、ごめんって、泣くなよ」
「だ、だって....!もう終わりなんだな、て、今までの事、楽しかった事、全部、思い出になっちゃうんでしょ?」
優介がひゅっ、と喉を鳴らした。
ついに来たか、と思った、そのときだった。
「....恭子、田川になってくれないか?」
「....はい?」
田川?何のことですか?
田川、て....。
....優介の名字。
瞬く間に涙が止み、涙ぐんだまま、びっくり眼になった。
「あ、その....これでわかってくれるかな....?」
ぽかん、としている私に、テーブルを滑らせるように見せつけられたそれは。
リングケース。
「け、結婚、し、して欲しい」
まじまじとリングケースにあるプラチナのようなリングを暫し眺めてる。
「わ、別れ話しじゃ...ないんだ」
「え?」
優介はどう私にプロポーズするか悩んでいた。
ついでに雨まで降り出し、最悪のシチュエーションだな、と余計に切り出しづらかったのらしい。
事情を知った私は目尻の涙を拭い、小さく笑った。
答えはもちろん、YES。
この雨が止んだとき、綺麗な虹を一緒に見ることが出来た。
神様がくれた、ある意味、最高のシチュエーションなのかもしれない。
一生、忘れることは無いだろう。
プロポーズの直後、一緒に見上げて微笑んだ喫茶店にかかる綺麗な虹を。
繋いだ手の暖かさを。
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