虹がかかる喫茶店

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一体、いつになればテーブルの向かいに座る優介は口を開くんだろ。 目の前のホットコーヒーも手付かずできっと冷めきってる。 私たちみたいだ。 私の手元にある温かい紅茶も、一口飲んだだけでまるでオブジェ。 優介は数日前に昔よく行っていた古びた喫茶店に呼び出した。 モダン、と言えば、響きはいいけど、ジャズミュージックのBGMは唐突に降り出した雨の音で無惨にも掻き消されちゃっている。 何故、わざわざ窓側で、雨が窓ガラスに打ち付けて、涙みたいに泣いてる様を見なきゃなんないのかな。 せめて、窓側なんかじゃなかったらまだマシだ。 優介とは大学のサークルの飲み会で知り合い、それがきっかけで交際を始めた。 もうすぐで6年になろうとしてる。 大学時代とは違い、互いに27歳という大人になり、互いに社会人。 昔のようにデートする時間も減ったな...。 暇がないんだし、仕方ない...のかな。 その間、優介はどう過ごしてるかなんて優介本人にしかわからない。 優介は携帯会社で経理部として働いてる。 ....別に女、て存在は私だけじゃない。 束縛なんて嫌いだから、いちいち聞いたりなんてしなかったけど。 ....もう終わり、て事なのかな。 雨で滲む景色を眺めていた視線を優介へ移す。 優介は相変わらず、項垂れてだんまりだ。 次第にイラ、とした。 呼び出したのは優介だ。 貴重な日曜日の休みなのに。 21歳だった私はもういない。 アラサーの27になった私だけ。 私の勤める旅行会社にだって、ハタチそこそこの若くて可愛い社員はいる。 優介の会社だって同じだろう。 別れたいならハッキリ言えばいい。 「....恭子、話しがあるんだ....」 やっと口火を切ったかと思ったら、また優介は切なそうな辛そうな表情で言葉を濁した。 途端、雨の見すぎなのかな、涙が止まらなくなった。 ずっと本当は泣きたかったんだ。 社会人になって、次第に多忙になったけど、知り合ってからずっと好きだから....。
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