気づいて

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気づいて

今日も今日とて俺はあの子に話しかけるタイミングを掴み損ねていた。 今日はふわふわの白い上着で、少し短めなスカートは可愛いけど心配になる。少しだけチラ見してすぐ目を逸らした。 彼女に恋をしている。でも、恋に不慣れな俺はどうすればいいか分からずただ日々が過ぎ去っていく。授業の30分も前から席に座ってる君をこっそり眺めるだけの日々。 ことの始まりは数ヶ月前。文化祭の打ち上げで行った遊園地がきっかけで恋に落ちた。俺は絶叫系のアトラクションが苦手で、でも空気を壊したくなくて無理に乗った。そしたら気持ち悪くなってきて、でも空元気で騒いで。そしたら君がずっと隣で気にかけてくれて、嬉しかったんだ。そんで、自分でもちょろいなって思うくらいあっさり落ちてしまった。 優しくされ慣れてないんだ。大丈夫?って俺の顔を覗き込む君が悪いんだ。男なんて単純なんだから、すぐ好きになっちゃうから。だから、どうか俺以外に同じことしないで欲しい。 恋なんてどうしてかうまくいかない。落とされて、自覚して、そっから距離を縮めようとしたけど結果かっこ悪いところばかり。その日君がキラキラした目で見つめていたクレーンゲームのぬいぐるみも結局取れずに、しょうがないって苦笑いさせてしまった。 それ以来まだ話せていない。向こうからは話しかけてくれないし、俺はタイミングを逃し続けて今に至る。どうにか挨拶くらいは出来るようになりたい。 「おはよう」 君の声がして振り向く。あぁ違った、俺にじゃないや。友達かな、そりゃそうか…まて、誰だその男。 「課題やった?そう、LINEで言ってたやつ」 聞こえてきた言葉に焦る。LINE…?やりとりしてるってことか?羨ましい、なんて。俺が遊園地の帰りに送ったLINEは特に盛り上がらず終わったことを思い出す。 既読スルーとかされなかっただけマシとか、少しは会話できたとか友達は言ってくれたけど。他の男とは話してるなんてもやもやする。まだそんなことを言えるような関係ですらないけど。 ・・・ そんなある日、転機が訪れた。 同じ授業でグループワークが同じになった。周りの人たちのアシストもあってだけど、良い感じに同じ班になるよう誘導してくれた。  グループワーク中、ふと目が合って。なに?って感じにニコッと笑った顔にどうしようもなくときめいたんだ。あの日と同じように笑いかけてくれる。ずっと楽しそうに笑ってくれる。俺のこと好きだったりしてくれないかな。少なくとも嫌われてはないよな。 俺をみて欲しい。好きになってよ。君が良いよって言ってくれるなら、俺はなんだって出来るのに。君が嫌なことはしないし、怖いものからは守ってあげる。君がしてくれたように俺も君に寄り添いたい。 あぁ、それなのに。 授業の最後、参加したグループのメンバーを書いて提出しないといけなかった。君はペンを持って、少し申し訳なさそうに僕を見ながら言った。 「えっと…ごめん、名前覚えるの苦手で…」 君は俺のこと覚えてすらいなかったんだね。 本当は分かってたよ、視線の先に入れてすらもらえてないことくらい。それを知りたくなくて、都合のいいように全部解釈して舞い上がって。馬鹿みたいだ。それでも好きで。 だから気づいて。君のこと、こんなに好きな男がいるってこと。 告白にはまだ早い。
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