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静寂も、闇も、けして怖いものじゃない。何故ならその向こうに、素敵なものがたくさん待っているのだから。
「!」
ぱあああ、とイルミネーションが点灯した。真ん中のツリーに、足元から光がともっていく。青、緑、赤、ピンク。光がゆっくりとモミの木を駆けあがっていき、最期はてっぺんの星が煌々と輝きだした。周辺の並木にも、次々とシャンデリアを思わす光の粒が宿り始める。
「メリークリスマス!」
写真を撮る人々、歓声を上げる人、拍手をする人。そんな中、私は両手で彼の手を握りしめて叫んだ。
「あのね、去年から点灯式やってるんだって!八時だから間に合うか不安だったんだけど、君と見れて良かったよ!」
「小柴……」
「ね。暗い場所があるからこそ、光がキレイなんだよ。……それに、今は一人じゃないでしょ。その……わ、私で良かったら、いつでも不知火君のところに飛んでくよ。戦隊ヒーローみたいに!」
丁度、カラオケで戦隊ヒーローの主題歌を歌ったばかりだった。それを思い出してか、楓音の表情や柔らかく綻ぶ。
「……うちの親、喧嘩ばっかしてたんだ、子供の頃。俺、いっつも八つ当たりされて、倉庫に閉じ込められてさ。そこが暗くて狭くて静かで……そしたら、今でもマジで怖いまんまになっちゃって」
本当は、言葉にする以上に心の傷となっているのだろう。あるいは、もっと恐ろしいこともたくさんあったのかもしれない。親と引き離されたのだから、よっぽどの出来事だったはずだ。
「だから、そういうの全部吹き飛ぶくらい、明るい奴になろうって思ってさ。でも、なんか、うまくいかないことも多くて。俺、静かなのをぶっ壊してくれる音楽にばっか逃げてて。これでいいのかなとか、ずっと思ってたんだけど」
「うん」
「……今、気づいた。俺、静かだとか、暗いのが怖いんじゃなくて……独りぼっちなのが、本当は怖かったんだ」
ありがとう、と。楓音は泣きそうな顔で、笑った。
「小柴が一緒なら、怖くないって気が付いた。……メリークリスマス。来年も、一緒に此処に来たいつったら、怒る?」
「まさか!」
あ、でも、と。私は悪戯心を発揮して、そっと顔を近づけたのだった。
「でも、クリスマスプレゼントはほしい、な。……そ、その、良ければ今日から名前呼びとか、どう?」
真っ赤になって、固まった彼がもっと顔を近づけてくるまで五秒後。
彼以上に私の顔が茹蛸になるまで、さらに十秒後のことだった。
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