静けさを抜けたその先に。

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 ***  不知火楓音という少年という少年と出会ったのは、吹奏楽部でのことだった。  本当は軽音部に入りたかったという楓音。吹奏楽部に入ったのは単純明快、軽音部がなかったことと自分で部活を作るだけの気力がなかったということらしい。そして、実際に吹奏楽部に入ったら存外楽しくてハマった、とのこと。ようは、とにかく音楽が好きだから関わることがしていたかったらしいのだ。 『本当は、俺自身が演奏したいっていうのとはちょっと違うんだけどさー。音楽聴いていると安心するっていうか、嫌なことも忘れられるっていうか。暗い曲でもなんでもいいんだよ、現実じゃない別の世界を冒険できるかんじがして、それはそれでわくわくするじゃん?』  とにかく傍で音楽を聴いていたい、演奏するのはそこまで興味がない。そう言うわりに、彼のトランペットの上達速度は凄まじいものがあった。高校から吹奏楽を始める人間はそう多いものではない。経験者だらけのトランペット軍団についていくのはなかなか大変なものであっただろうに、彼は非常に練習熱心だったのだ。  まあ、うちの吹奏楽部自体、そこまでレベルが高い部活ではないのだが。ここ十数年、地区大会どまり。まあ人数もそこまで多くないので仕方ないと言えば仕方ないのだが、それはそれとして私達はのんびりまったり楽しく吹いているので問題ないとは思っている。  一年生の時、先に声をかけてきたのは楓音の方だった。中学の時にちょっとかじっていた、程度のトロンボーン。高校になっていきなり曲のレベルが跳ね上がり、練習でも苦心していたところ向こうから近づいてきたのだった。 『お前、音楽が好きなんだな!』 『へ?』  お世辞にも上手とは言えないトロンボーン。サードトロンボーンで、他のパートより格段に難易度が低かったはずなのに低い音が出ない。ローBが出なくてぐぬぬぬ、となっていたタイミングでのこの発言である。 『……私、めっちゃ下手じゃん?何を根拠にそう思うのさ』
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