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静けさを抜けたその先に。
私の彼氏、不知火楓音はちょっと変わっている。
それは見た目じゃない。
そりゃ、うちの高校の校則が緩いのをいいことに、見事な金髪に染めちゃってる高校生っていうのはそうそう多いものじゃないだろうが。それはそれで似合っているし、髪の毛以外で素行不良なわけでもない、と思う。学校の成績も悪くない。ただ、大好きなロックバンドのボーカルが金髪に染めているので、憧れて自分も染めてみましたっていうだけらしい。
「不知火ー。受験生になったらその髪戻せよー。面接で落とされても知らんからなあ!」
「それが問題なんっスよ先生。俺の髪の毛伸びるの早くって、ものすごくタイミング見定めないと素晴らしいプリンになっちゃうんです。なんか最近、生えてくる髪の毛もなんか色が明るくなっちゃってー」
「もう美味しそうっていうのでウリにしたらどうだよ不知火ー」
「お、いいねえたもっちゃん!もうプリン不知火楓音って名乗るわ俺!」
これが先日の、先生と楓音、友人の“たもっちゃん”の会話である。相変わらず賑やかな奴だなあ、と私は思いながら見ていた。堅物の先生も思わず笑ってしまっている。
まさに陽キャと呼ぶに相応しいタイプ。口下手な私とは正反対だ。友達が多くて、いつもクラスの中心にいて、笑顔が絶えないムードメーカー。よく私達がお付き合いなんかできたものである。両親がいない、なんて暗い過去も一切感じさせない明るいキャラクター。
だから、私が思う“変わっている”は、そういうことではない。
彼は私をデートに誘う時、いつもこう言うのである。
「遊びに行かね?どっか騒がしいとこ!」
彼は、静寂を極端なほどに嫌っている。
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