クロスさま。

1/4
前へ
/4ページ
次へ

クロスさま。

「ああああああああああああああもう!失敗したあああああ!」  私の目の前で、薫子(かおるこ)ちゃんが地団太を踏んだ。 「何回やっても成功しないじゃない、クロスさまの儀式いいいいい!」 「落ち着けよ薫子。すげえ顔になってるからなお前」 「ふーんだ、あたしは最初っからこういう顔なのよ、文句ある!?」 「マジで落ち着けなー」  怒りすぎて般若みたいになっている薫子ちゃんを、俺っ娘な雪葉(ゆきは)ちゃんが嗜める。私、美歩(みほ)と、関西弁が特徴のるちるちゃんは互いに顔を見合わせて笑うしかない。  小学生の頃から仲良しの私達女子中学生四人組は、最近SNSに動画をアップすることにハマっているのだった。勿論、ユーチューバーなんて呼ばれるほど本格的なものでもないし、人気があるわけでもない。ただ、四人で一緒にわいわいと騒ぎながら動画をアップして見て貰うのが楽しいというだけだ。  最近は、学校に纏わるオカルトな動画を撮影することが多い。  ここのところブームが来ているのは“クロスさま”という儀式の撮影だった。何でも全知全能の凄い神様を呼びだす方法、というのが女子の間で大流行しているのである。  何でもその神様がものすごく美人で、物凄く強くて、選ばれた人間のところにしか来てくれないというのだ。  だから、儀式の方法は確立されていても、召喚に成功するとは限らない。むしろ基本的には失敗すると思っておかなければいけない。成功したらそれは、クロス様に選ばれた証であるという。  まあ、この年頃の女子は“選ばれた特別な存在になれる”みたいなフレーズには非常に敏感なのである。自分達が呼ぶところに成功したら面白くね?それを撮影できたら超バズるんじゃね?なんて雪葉ちゃんが言いだして、私達三人もそれに同意した形なのだった。  で、本日で五回目のトライになるわけだが、一向に成功しないで今に至るのである。  わざわざ蝋燭まで用意して、呪文をきっちり唱えて魔方陣も書いたのに何が足りないというのだろう? ――やっぱり、私達みたいな普通な女子中学生じゃ駄目なのかなあ。  “不思議な出来事”に一際憧れの強い私は、がっくりと肩を落としたのだった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加