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承認欲求と言いたければ言え。
誰だって目立ってみたいし、褒められたいと思うのは普通のことだろう。昔から、私達はみんな揃って目立ちたがり屋だった。特に、私と雪葉ちゃんは幼稚園も一緒である。ジャングルジムに登ってヒーロー戦隊の真似をし、落下して怪我をして先生たちにこっぴどく叱られるなんてことも珍しくなかった。やっていることは完全に男子のワルガキのそれである。
無論、中学生になってまで、高いところに登ってヒーローゴッコしたいとは思わないが。目立ちたがり屋のところは、別方向に発揮されるようになったというわけだ。なんといっても、今の時代はネットがある。子供だろうがなんだろうが、望めばいくらでも自分の意見や作品を発表していける世の中だ。
小学生になって、同じくお祭り好きな薫子ちゃんとるちるちゃんと出逢ってさらに意気投合。中学生になって全員がスマホを持てるようになってからは、こうして集まって変な動画作りに励むのがお約束となっている。
まあ、動画を作ったところで大して回らないし、コメントも一つ二つつくかつかないかというレベルなのだが。みんなで一つのモノ作りに取り組むのは楽しいし、ちょっとでも一般の人に見て貰えたらそれだけで十分盛り上がれるのである。
基本は、リーダーである雪葉ちゃんこと村雨雪葉ちゃんが企画を作り。
イラストが必要ならば、私、角田美歩が絵を描き。
情報集収集は友達がたくさんいてムードメーカーの大阪るちるちゃんがやって。
最後に動画編集を、手先が器用な不動薫子ちゃんがやる。大体、そういう段取りで進むのが定番なのだった。
「クロス様って、どういう意味なんやろね?」
るちるちゃんが首を傾げて言う。電気を消して暗幕を張り、暗くなった放課後の教室。先生が見回りにきて水をさしてくるまでしか撮影することはできない。多分、あと一時間が限界だろう。
「クロスって、やっぱり十字架のクロスとかそういうんかな?」
「意外と、人の名前かもしれないよ、ああいうの。くろすさん、って苗字でありそうでしょ?」
「おお、流石美歩、頭ええなあ」
うちは成績悪いからなあ、とるちるちゃんはからからと笑う。
「せやかて、そのクロス様がうちの学校に出るちゅーのがわからん。昔この学校で死んだ生徒か何かなんやろか?」
彼女の尤もな疑問に、そうでも無いと思うわ、と薫子ちゃんが言った。
「あたし、友達にもう少し詳しく聴いてみたの。マイちゃんのお姉さんとかオカルト研究会入ってるから詳しいのよね。そしたら、どうにもクロス様の儀式って、マイちゃんのお姉さんの高校でも普通にやってるんですって。ただし、誰も成功してないみたいなんだけど」
「へえ、高校生もそういうの好きなんやなぁ」
「俺らみたいな目立ちたがり屋は多いだろ。女子高校生なら尚更にさ」
「確かにそうかも」
まあ、承認欲求が強いのは学生に限ったことではない。むしろ炎上系ユーチューバーとして、よくニュースに出てくるのは、大人の男性が圧倒的に多いはずである。
目立ちたい、褒められたい、は人間として当たり前の欲求だ。人にどうこう言われる筋合いはないだろう。勿論、他人に迷惑をかけるのは良くないが。
「それでね、あたしマイちゃん経由でもう少し詳しい情報を貰ったわけ。なんでも、この儀式の鍵になるのは“静寂”だっていうの」
「静寂?」
「そうよ」
薫子ちゃんは、わざとらしく声をひそめて言った。私達は興味津々で顔を近づける。
流石に五回目の失敗で飽き飽きしていたのは事実。今度こそ成功させられる鍵があるならやってみたい。
「なんでもね、真っ暗になった部屋で……一分間、ほぼ完全な静寂を保たないといけないの。声だけじゃなくて、物音も立てじゃ駄目。難しそうだけど、やってみる?」
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