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それから時は流れ。
冬の気配がすぐそこまで来ている11月末。
颯人と真冬は二人並んで大きな敷地に立つ日本家屋の前に立っていた。
真冬のお腹もふっくらと目立ち始めたため、ゆったりとしたワンピースを身に着けている。
「ここが真冬の家………」
颯人は立派な門構えを見て緊張した声を出す。
ふと隣を見ると真冬の顔色が悪い。すぐに心配げな表情を見せ、彼女の肩をそっと抱いて視線を合わせた。
「真冬、無理しない方が……」
「大丈夫」
自分の肩を抱く手に手を重ねた真冬はふうっと息を吐いてから力強く頷く。
そしてその視線を颯人の頭髪に移して、強張らせていた表情を和らげる。
それに気づいた颯人も同じように笑って手を自分の頭にやる。
「まだ違和感ある?」
颯人の髪は今は黒。
真冬の両親との挨拶のために染めたのだ。
出会った時から赤かったためにそのイメージしかない真冬は未だその違和感が拭えなかった。とはいえ、颯人としては大学の時に髪色を元に戻すつもりであった。だが、真冬とアニメを観ているときにやたらと赤い髪を推しているのを見て戻すのを躊躇していたのだ。
だがそれは単に颯人の髪が赤いために、無意識に真冬の推しになっただけの話なのだが。そんな事情は颯人に知る由もなかった。
結婚の挨拶に赤い髪のままでは流石にまずいと、ここにきて颯人は自らの元の色に戻したのだ。
「黒くても格好いい」
「え……マジで?……真冬にカッコいいって言われたの、初めてかも」
照れたように笑う颯人に目を細めながら、真冬は颯人の手を取った。
「じゃあ、行きましょうか。旦那様」
「だん……。う、うん……」
いつの間にか顔色も戻り、落ち着きを取り戻した真冬が颯人に微笑む。繋いだ手に力を込めて真冬は一歩実家に足を踏み入れた。
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