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病室には颯人と父親。時折咳き込み苦し気な息を吐きながら父親は颯人を見上げる。
「あ……、い、家……すまんな……。…病気を、し、してから…返済が……滞った……、ゴホッ…」
借金を返すことができなくなったために担保である家が差し押さえられることは、容易に想像ができたことだった。
父親は申し訳なさそうに目を伏せる。
あのときの颯人は、突然家を失ったことで絶望もしたし途方に暮れもした。
だが―――。
「オレ、今真冬と……さっきの人と住んでる」
その出来事が元で今は愛する人と一緒に暮らし、そして幸せを感じることができていることも事実。
「そ、そうか…」
「正直オレ、親父のこと恨んでた…」
「と、とう、ぜん、だな……」
「けど、オレにも大事な人ができて……、あの時の…母さんが亡くなって無気力になった親父の気持ちもちょっとわかるようになったっていうか……」
颯人の言葉をじっと聞きながら、父親は緩く首を振る。
「い、いや……私、は………一番大事な、…か、母さんの…明里の……最期、の言葉を守ること、が………できなかった……お、。お前、を………頼むと言われていたのに……。……日ごと……、あ、明里、に似ていく………お前を………見るのも、つら、く…なっていって……。……わ、たしは逃げた……」
小さな声ですまなかった、と言って自分を見る父親に今度は颯人が首を振った。
「もう、いいんだ……。オレ今幸せだし。つらいことも嫌なことも全部、今に繋がってるんだと思うから。だから………、もういいんだ」
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