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「ただいま」
真冬が玄関を開けるとキッチンから颯人がひょっこりと顔を出す。真冬を見るとその表情が嬉しそうなものへと変わる。
「おかえり。今日は遅かったんだな」
「ちょっと、病院に行っていたから」
真冬の言葉に一瞬にして怪訝な顔になる颯人。
「え…。真冬どっか具合でも?」
「ううん、病気とかではないから」
母親のことがあり、前々から颯人は真冬の体調に敏感ではあった。それが父親の件でさらに心配性になったきらいがある。
そのことに気づいていた真冬は心配のないように颯人に笑いかける。
リビングに入った真冬はテーブルに今日もらったばかりのエコー写真を置く。
颯人はそれを眺めた後、不思議そうな顔をして真冬を見る。
「産婦人科に行ってきたの。7週目だって」
「………え……。7週目って……」
もう一度机にある写真と真冬を交互に見た颯人は驚きに目を見開く。
「こ、こども?真冬、妊娠した…ってこと……」
真冬が頷くのを見ると颯人はその表情を嬉しそうにして、それからハッとしたように俯く。
「も、もしかして、親父のときの……。オレあの時ゴムしてなかったから……」
「喜んでくれないの?」
颯人の様子に首を傾げ、その顔を覗き込むと颯人ははじかれたように顔を上げる。
「もちろん、嬉しい!でも真冬に負担が……」
「私はすごく嬉しかった」
真冬は自身のお腹を慈しむように撫でて颯人を見る。その様子に颯人はくしゃりと顔を歪めた。
「オレも………。真冬っ!ありがとう」
颯人は机を周り真冬の隣で膝をつくと、そのまま真冬を抱きしめた。
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