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颯人の言葉に安心したように笑みを漏らした後、真冬は何かを決心するかのように膝にある両手で握りしめ表情を引き締めた。
「あと……………」
言いづらそうに視線を彷徨わせ言葉を紡ぐ。
「うちの両親の挨拶は安定期に入ってからにしてほしい………。つまり、あと2,3か月待ってほしいの」
そう言って俯いた真冬。
颯人は真冬と両親との間には何かあるんだということは薄々感じてはいた。
付き合ってからというもの真冬は里帰りをしたことがなかったし、家族の話をするのも聞いたことがなかったから。そしてまた聞かれたくないようなそぶりもあったのだ。
「たぶん気づいているよね。私……両親が、特に母親が苦手なの………」
未だ俯いたままの真冬の頭に手を置いて、ゆっくりと撫でるとピクリと真冬が肩を震わせた。
真冬の父親は官公庁に努めており常に多忙。そのため真冬に父親との思い出は少ない。
逆に母親は専業主婦で、真冬と兄を育て上げたのは母親だ。
幼少期から躾に厳しかった母親。
器用でなんでもそつなくこなす兄とは違い、不器用な真冬に対しての当たりはかなりきつかった。
習い事と勉強で友達と遊んだ記憶すらない小学校時代。そしてそれは中学に入るとさらにエスカレートする。
好きなアニメや漫画は処分され、分刻みでスケジュールが組まれた真冬は課題をこなすだけで精いっぱい。
それでも初めは母親に認めてもらおうと必死だった。上位の成績を維持し、母親の言う通り安定した職に就くことだけ考えていた。
有名な国立の大学に入ったところで真冬にやっと余裕が出てきた。
自らを鑑みる時間ができたことで気づいたのは、自分には何もなく空っぽだということ。
全て母親の言うとおりにやってきた。あとは安定した職に就くことだけ。
だがーーー。
大学で初めて交流を持った同級生とのやりとりで、母親の敷くレールに沿ってきただけの自分には何もないことを痛感させられたのだ。
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