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真冬はたどたどしくも、過去の話や家族に対しての自分の思いを颯人に吐露する。神妙な面持ちでその話を聞いた颯人は、ふっと表情を和らげて真冬の頭を安心させるように撫でる。
「話してくれてありがとう」
真冬が顔を上げると颯人はなんてことないという風に明るい声を出す。
「オレは真冬の身体が一番大事だから。挨拶は真冬の言う通り安定期を過ぎてからにしよう」
「ありがとう」
そう言って、安心した顔をした真冬が「ごはんにしようか」と言って立ち上がろうとその足に力を込めた時だった。真冬の手を両手でとった颯人がその動きを制した。
不思議そうな顔をする真冬を見ながら、颯人は両手で握りしめたそれを顔の前に持ってきてそこに恭しく唇を寄せた。
「真冬」
熱い息が真冬の手にかかる。
そして射貫くような目が真冬の視線と交差する。いつになく真剣な表情に真冬はドキッと胸を高鳴らせた。
真冬にとってそれは一番好きな表情でもあった。
「オレはこの先一生真冬の傍で生きていきたい。真冬と一緒に幸せになりたい。オレを幸せにできるのは真冬だけ。だからオレも真冬を幸せにすると誓う」
ちゅっと真冬の手の甲にキスをして再び真冬を見る。
「オレと結婚してください」
「犬飼くん………」
嬉しさから真冬の目に涙が浮かぶ。
「指輪も、花すらないけど……」
その言葉に真冬はフルフルと首を振る。
「何もなくてもいいの。…いつも私に幸せをくれるのは犬飼くんだよ。空っぽだった私を満たしてくれたのは犬飼くんなの。私も犬飼くんを幸せにすると誓います。私と結婚してください」
にっこり微笑んだ真冬の目から限界まで浮かび上がっていた涙がこぼれ落ちた。
同じように笑った颯人は真冬の頬に流れる涙を親指で拭って、壊れ物を扱うように優しくそっと抱きしめる。
「好きだ。初めて会った時からずっと。これから先も真冬だけ」
「私もあなたが好き。ずっとずっとこれからも……」
笑いあって見つめた後は、お互いの顔を近づけそっと重ねるだけのキスを交わした。
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