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廊下の突き当りの襖を開けるとそこは8畳の和室。
真ん中に彫刻を施した大き目の座卓があり、後ろ向きに二人がすでに座っている。真冬の両親だ。
先に入った雪人が空いている座布団に腰を下ろしたところで、真冬と颯人の二人も座卓へを歩を進める。
緊張の面持ちで二人が空いた座布団へ座る。
目の前には硬い表情をした男女。
父親は厳格そうな顔で口を引き結び、じっと真冬と颯人を見ている。白髪交じりではあるが、おおよそ還暦を超えたようには見えない若々しさもある。
隣に座るのはパーツが真冬に似た母親だ。怒りが感じ取れるほどその目は吊り上がっているが、真冬の母親なだけあり、その顔は整っている。
「あ、オレ…私は犬飼……」
佇まいを正した颯人がその顔を下げたところだった。
「何を考えているの、真冬!」
この場に似つかわしくない大きな声が響いた。
颯人が顔を上げると、真冬の母親がキッと真冬に厳しい視線を向けている。
「今まで何年も顔を見せず、久しぶりに帰るというから何かと思ったら………、結婚……?」
母親の只ならぬ雰囲気に颯人は心配げな表情で真冬を見る。
今回訪問にあたり、結婚をしたい人がいるとだけメールで連絡を入れていたのだ。
開口一番叱責されるだろうことを真冬は覚悟していた。
ましてや祝福してくれるなんて期待もしていない。
「はい」
真冬は視線を下げたまま、淡々と答える。その顔は強張り、表情からはなんの感情も読み取れない。
「し、しかもそのお腹……、あなたまさか……」
「はい。今6か月です」
真冬はしっかりと顔をあげ、母親を見る。
世間体を気にする母親が嫌がりそうなことたど、これについても否定されるだろうと思っている。
「い、いい加減になさいっ!」
「私はもう十分に成人しています。親の同意なしに結婚もできます」
「真冬!」
キンとした声に真冬の肩がピクリと震え、膝の上に置いた手にぎゅっと力が入る。昔から何度も聞いてきた甲高い声に、自然体が反応してしまう。
そこにそっと気遣うように手を置いたのは、今までその様子を何も言わず見守っていた颯人だった。
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