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「君は…?」
真冬の父親が颯人を見る。
その視線を受けて颯人は背筋を伸ばし、真っすぐに視線を合わせる。
「オレも、今すごく幸せです。……まだ全然子供だし、学生だし、真冬…さんに釣り合ってないのはわかっています。でも、オレの全てを懸けて守りたいし大事にしたい。そのためならどんなことでもします。オレの幸せは真冬と共に寄り添って生きていくことなんで。これから先もずっと真冬と一緒に幸せになります」
颯人の言葉に「へえ」という言葉を漏らしたのは今まで何も言葉を発しなかった雪人だった。
颯人がそちらを見ると、雪人は真冬に似た氷のような表情をふっと和らげた。
「いい人に出会えたな」
それは妹の幸せを願う兄の表情だった。
真冬は久しぶりにこの家に来た時から驚きの連続だった。
母親とは相変わらずだったが、それでももっと険悪になると思っていたのだ。
それほどまでにならなかったのは、隣にいる颯人と激昂した母を諫めた父だ。
そして今、中学から疎遠になっている兄からもそんな言葉をもらえるとは思ってもみなかった。あまりいい思い出がないと思い出すこともなかった。
それでもその表情を見ていると、自分に無関心だと思っていた兄は昔確かに自分を可愛がってくれていたという記憶も朧気ながら蘇ってくる。
ずっとつらいと思っていた過去に塗り替えられた、もっと昔の幼いころの記憶。
そういえば、小学生のころには家族で旅行に行ったこともあったと今さらながら思い出す。
昔から躾けには厳しかったが、楽しい思い出もあったのだ。
「少し昔話になるが……」
父親が真冬と颯人を見て、少し遠くを見るように目を細める。
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