確執

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「母さんがこの家に嫁いできた時、まだ私の両親がここに住んでいた」  父親がいう真冬にとっての祖父母だが、祖父は真冬が物心つく前に亡くなっており、祖母は高校生の時に亡くなっている。  真冬の記憶の祖母は隙が無く、常に厳しい視線を向けてくる厳格な人だった。  ただそれが直接真冬に向けられることは少なかった。 「静香は特に母とは折り合いが悪くてね。私は常に母から静香に対する苦言を聞いていた。だけども、私はずっと無関心だった。ずっと外で働くことに生きがいを感じて、お金さえ入れてさえすれば家族の責任を果たしていると思っていた。だから気づけなかった。静香がこの家で孤独を感じていたことに」  自嘲気味に笑った父親はふっと真剣な眼差しで真冬を見る。 「真冬は自分に似ていると、そういつも言っていた。不器用なところが自分を見ているようだと。私の母からきつく家事や子育てのことを言われ続けた静香は、真冬には同じ思いをさせたくないと思ったようだ。母に文句を言わさないほどに立派に真冬を育てる、と多少意固地になっていたかもしれない。それすら当時の私は仕事にかまけて気づくこともなかったんだけれどね」  父親のその話は真冬には衝撃だった。    ただ、嫌われていると思っていた。何でもできる兄とは違って、自分は常に努力をしないと母の望む成績を維持できなかったから。  兄と比べられていると思っていた。  出来の悪い自分のことが嫌いだから、あれほどの課題を課すのだと。
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