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「真冬、遅いかもしれないが私はこれからは家族に向き合っていきたいと思っている。静香ともじっくり時間をかけて話していくつもりだ。それで、もし良かったら孫ができたら顔を見せに来て欲しい……。もちろん無理にとは言わないが…」
顔を上げた真冬はそれには返事をせずに、もう一度頭を下げる。
「今日は帰ります」
「真冬……」
真冬の言葉に心配げな表情を見せる颯人。
だが、それに困ったように笑って「帰ろ?」と真冬が告げれば颯人はそれに従う。
複雑な真冬の心境を慮ってのことだった。
元々真冬が帰りたいと願ったなら帰るつもりでいたのだ。
颯人は父親と雪人に深く頭を下げ、「また、来ます」と一言告げる。それは颯人の決意表明のようなもの。
颯人のその言葉に少し驚いた表情をしたものの、それに関しては何も言わず真冬は軽く頭を下げると和室から出た。
瞬間、真冬から重い息が吐かれ、かなり緊張していたのだと感じる。
颯人はそんな真冬の手をとり、玄関へ向けて長い廊下を進んだ。
「真冬、ちょっとだけいい?」
玄関近くまで来た二人にそう声をかけてきたのは雪人だった。
「兄さん」
真冬は兄を見て、颯人を見て、それから軽く頷いた。
雪人が向かったのは物置に使われている一室。
先に入った雪人が入り口付近の電気のスイッチを押すと、暗かったその部屋に明かりが灯った。真冬はその眩しさに思わず強く目を瞑る。
そうして開けた目が写したものは―――。
「これ………」
その部屋には、昔真冬が好きだったアニメのDVDやコミックが置かれていた。棚には当時集めていたフィギュアなども飾られている。
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