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「捨てられていたもんだと……」
それは真冬が中学にあがると同時に処分されたものだった。いや、ここにある時点で処分されたと真冬が思っていた、ということになる。
震える手でそっとフィギュアを手に取る。そこにはホコリ一つついていなかった。
「俺も家を出てからちょこっと荷物を取りに帰ってくることがあったんだけど、その時に見つけたんだ。……これ、俺が家をでるときまとめてゴミ袋に突っ込んだやつ」
そう言いながら雪人が持つのは何かのトロフィー。
雪人の後ろに並ぶのは、習っていたサッカーや水泳などのトロフィーやメダル。
「わざわざゴミ袋から出してここに置いてるんだよ。そっちのは真冬は好きだったアニメとか漫画関係だろ?」
雪人の言葉に真冬は手に持つフィギュアを見つめる。
捨てたと聞いて悲しくて、つらくて。子供の思い出と共に胸の奥底に閉じ込めた感情も溢れ出てしまう。
懐かしくて、その一つ一つに思い出がよみがえる。
お小遣いを貯めて買ったもの。誕生日にもらったもの。限定品を一緒に並んだこと。
「真冬…」
颯人が真冬の肩を抱く。
真冬から溢れる思いと共に涙が頬を伝っている。
「さっき父さんが言ってただろ。母さんが無器用だって……。俺が小さい頃は母さん料理壊滅的だった」
雪人の言葉に、真冬は驚いた表情を見せる。
「破けたオムライスとか、焦げた目玉焼きとか。煮物の味付けも間違えてしょっぱかったり、やけに甘かったり…」
颯人は雪人の話に意味ありげに真冬を見る。その視線を受ける真冬にはその意図はわかっている。真冬も一緒だと言いたいのだ。
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