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「俺が大学で家出た時からだろ?真冬に対してさらに厳しくなったの」
ふいに雪人が声を落とした。
持っていたトロフィーを棚に戻すと、ゆっくりと真冬を振り返る。
「それまでも躾けには厳しかったけど。…悪かったな。俺もあん時はガキで真冬のことまで頭回してやれなくて」
真冬は兄とは6歳離れている。
真冬の記憶でも確かに中学にあがるころにアニメを禁止され、友達とも寄り道も許されないようになった。それは確かに雪人が大学入学のころだ。
「兄さんが謝ることじゃ……」
「真冬だけでもまっとうに育てなきゃって思ったんだと思う」
自嘲気味に笑う雪人に真冬は不思議そうな目を向ける。
「?どういう……」
「家出るとき、母さんには言ったんだ。俺はゲイだから孫は期待しないでくれって。母さんぶっ倒れたけどね」
その時を思い出したからのか、雪人はふっと笑う。
真冬は雪人のそんな告白を驚いた様子で聞いていた。
「知らなかった」
「まあ、言ったことないしね。母さんも言わないだろうね。自分の育て方が悪かったんだって思ったみたいだし。そうじゃないのにね……」
「兄さん……」
「ああ、でも誤解しないで。俺もちゃんと幸せだから。高校から付き合ってる奴と大学も今もずっと一緒にいるから」
そう言うと、雪人は真冬を真っすぐに見る。
「真冬は何も考えず元気な子を産んで。何かあったら相談乗るよ。こう見えて俺、小児科医だし」
「小児科医だったんだ……」
真冬は雪人が医者をしていることしか知らなかった。
「そ、自分の子どもは望めないけど、子供は好きだしね。だから俺も顔を見たい。真冬たちの子どもの…。まあ、勝手なこと言ってるよな」
先ほどの父親には応えなかった真冬だが、今はっきりと首を横に振った。
「ううん。見て欲しい……。父さんにも、母さんにも……」
「うん。ありがとう真冬」
真冬の目にはもう迷いはなかった。
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