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氷解
真冬のお腹もだいぶ出てきて、臨月に入った。
3月いっぱいまで働き、ちょうど新学期が始まると同時に真冬は産休を取得し今は自宅で絶賛妊婦ライフを送っている。
この春で大学3年になった颯人は、空いた時間に資格を取るための勉強に励んでいた。1,2年でかなりの単位を取得したため、大学へ通うのは週2,3日ほどだった。
そのため、颯人の一日はバイトをしつつ家事をして、空いた時間は勉強に充てるというスケジュールだ。
なんとしても資格を取ってやりたい職に就くという真冬との約束を2年後に叶えるために。
そんな颯人だが、月に2,3回ほど家を空けるときがあった。それは真冬の実家に挨拶に行ってからここ5か月ほど続いている。真冬がどこに行っているのか聞いても「今度ちゃんと話す」と言われそれ以上追求ができていない。
それは今日もそうだ。前々から出かけることは聞いてはいたが、朝早くから少し申し訳なさそうに出て行った。
「ただいま」
夕方、うとうととしかけていた真冬はそんな颯人の声にはっと目を覚ます。
妊娠してからというもの、つわりはひどくはなかったがいかんせんとにかく眠かった。未だにその眠気は続いている真冬は、ついついうとうとしてしまうことが格段に増えていた。
「おかえりなさ……い……」
目をこすりながら玄関に颯人を出迎えた真冬は、その後ろにいる人物を見て固まった。さきほどの眠気ははるか彼方に吹っ飛ぶほど、その人物は真冬にとっては意外な人であった。
「お、お母さん………」
真冬の母、静香がそこにいたのだ。
表情は固く、そこから静香の意図は全く読めない。
同じく表情を固めた真冬と、同じような顔をしてしばらく見つめあっていた。
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