氷解

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「あ、どうぞ」  そんな沈黙を破ったのは、おそらく静香を連れてきたであろう颯人だった。真冬は自宅へと招きいれる颯人をただただ眺めていた。 「犬飼くん、どういうこと?」  キッチンでお茶を淹れる颯人に真冬が困ったような顔をしながら問い詰める。 「真冬、勝手なことしてごめん。でもオレは真冬の言葉に助けられたから。あの時、オレの父親が危篤だって連絡がきたときに真っ先に会いに行けって言ってくれただろ。話すことがなくても恨み言を言うでも何でもいいって言ってくれたこと、今でもすげぇ感謝してる。だから真冬も………って思ったけど、やっぱ怒ってる?」  眉を下げる颯人に真冬はふうっと息をついて力なくフルフルと頭を振る。  怒っているわけではないのだ。ただ困惑している。  だが、真冬も母親とはちゃんと話をしたいと思っていたのも事実だ。 「ちゃんと話す、私も…」 「真冬……。オレ思ったんだ。生きているってそれだけですごいんだって。今は分かり合えなくてもさ、未来はわからないだろ。生きてさえいれば、これから先だって色んなこと変わっていくんだって。変えていけるだって思える」 「うん……。うん、そうだね」  真冬は颯人が淹れたお茶をトレイに置くと颯人を見て頷く。 「これは私が持っていくね」 「オレは、晩御飯の準備しとくよ」 「ありがとう」
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